会員・ボランティア募集中

有明体操競技場建設の型枠合板、東京五輪の木材調達基準違反の疑いで通報 〜絶滅危惧種生息地の伐採木材によるタアン社製合板をSMB建材が輸入〜

2021年9月10日、熱帯林行動ネットワーク(東京都渋谷区、以下JATAN)は、マレーシアの合板企業タアンと、輸入業者のSMB建材株式会社(三井住友建材と丸紅建材が2017年に事業統合)が、有明体操競技場の建設で利用された型枠合板の調達において、東京五輪「持続可能性に配慮した木材の調達基準」に違反した疑いがあるとして、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会へ通報を行いました。

通報の対象(注1)は、組織委員会の施設である有明体操競技場の建設に利用されたと考えられるマレーシア企業が生産した型枠合板です(注2)。この型枠は、マレーシア・サラワク州を本拠とする大手企業グループであるタアン社の型枠ですが、型枠合板の心材の部分にはオーストラリアのタスマニア州の木材も利用されています。このタアングループの子会社であるタアン・タスマニア社では、オトメインコ(swift parrot)という絶滅危惧種の生息地・営巣地や、メンフクロウ、タスマニアオオザリガニ、タスマニアデビルの生息地やオールドグロス林を含む保護価値の高い森林を伐採した木材を利用しており、現地の団体とともにJATANは数年来、問題視し改善を求めています。これらの問題のあるタアン社製の型枠合板が、有明体操競技場の建設で利用されていた疑いがあります。

図1
撮影:ボブ・ブラウン財団、撮影日:2017年8月     場所:タスマニア南部のオトメインコ生息地の伐採地

東京五輪「持続可能性に配慮した調達コード」(注3) と「持続可能性に配慮した木材の調達基準」(注4)では、法令遵守、環境保全、先住民族等の権利尊重の基準を満たした形での生産を求めており、特に、木材調達基準の2③では「伐採に当たって、生態系の保全に配慮されていること」といった規定があります。絶滅危惧種の営巣地を含む生息地を伐採してしまうような伐採は生態系の保全に配慮しているとは言えず、こうした商業伐採事業が、オトメインコの生存に大きな悪影響を与えるとして、現地NGOだけではなく、研究者も批判しています(注5)。絶滅危惧種の生息地を伐採して採取された木材は、木材調達基準の2③に合致していないと考えられます。

このような不遵守疑惑事例が起こる背景には、東京五輪の木材調達がPEFCなどの低い基準の認証制度に依存している現状があります。東京五輪の調達基準では、PEFCによる認証材について、木材の調達基準の3で、PEFCについては「適合度が高いものとして原則認める」(注6)として、PEFC認証材の利用を容認しています。しかし、これは原則として認めているだけで、全てのPEFC認証材が基準項目に適合していることを保証すると判断しているわけではありません。PEFC認証を受けていても、基準項目に違反する場合には、通報を通じて対処すべきであることが、木材の調達基準の策定段階で議論されていました。実際、上述のようにタスマニアでは、絶滅危惧種の生息地が伐採され、現地NGOや研究者が批判しているような伐採から取得された木材もPEFC認証を取得しており、このような伐採を排除できていません。つまり、タスマニアで取得されているPEFC認証では、種の絶滅を引き起こすリスクを高め、生態系の保全を脅かすような伐採作業からの木材を排除するための確認は行われておらず、「伐採に当たって、生態系の保全に配慮されていること」の確認は行われているとは言えません。

熱帯林行動ネットワーク(JATAN) 事務局長の原田公は「かりに森林認証(PEFC)の取得を隠れ蓑にして、木材原料の調達にともなう環境・人権問題などの事前抑制といった本来取られるべき予防策が見過ごされるような事態があるとすれば、希少種を絶滅へと追いやる深刻な生態系の破壊に五輪が加担してしまう懸念が生じる」と指摘しました。

タスマニアからの木材調達を行なっているのは、SMB建材株式会社(三井物産株式会社、住友商事株式会社、丸紅株式会社の合弁会社)が、日本への輸入を手がけていた疑いがあり、今回の被通報者としました。

通報の概要

通報者:
● 熱帯林行動ネットワーク(JATAN)
● オトメインコ(通報者に生じる負の影響を説明する必要があるために追加)
オトメインコ(Swift Parrot)は、国際自然保護連合(IUCN)では、野生生存状況がもっとも厳しいを示す絶滅寸前(Critically Endangered)と評価されている。タスマニアの絶滅危惧種保護法(Threatened Species Protection Act 1995)では、最も厳しい状況の分類である絶滅危惧(endangered)と分類され、、連邦法の環境保護と生物多様性法(Environmental Protection and Biodiversity Conservation Act 1999)でも絶滅寸前(Critically Endangered)と評価されている。
● タスマニア・メンフクロウ(通報者に生じる負の影響を説明する必要があるために追加)
タスマニアン・メンフクロウ(Masked Owl)は、EPBC法において危急(vulnerabble)に指定されている。メンフクロウは樹洞に依存している種で、樹齢100年以上のユーカリの洞を繁殖に必要とする。
● タスマニアオオザリガニ(通報者に生じる負の影響を説明する必要があるために追加)
タスマニアオオザリガニは(Tasmanian Giantlobstar)、世界最大の淡水棲無脊椎動物で、国際自然保護連合(IUCN)のガ イドラインでは絶滅危惧(EN: endangered)に、オーストラ リア連邦政府の法律の下では危急(vulnerable)に指定されている。
● タスマニアデビル(通報者に生じる負の影響を説明する必要があるために追加)
タスマニアデビルは、フクロネコ科に属する肉食性の有袋類。2008年にEPBC法とIUCNレッドリストにより絶滅危惧(Endagered)に指定。
● オールドグロス林(通報者に生じる負の影響を説明する必要があるために追加)
オールドグロス林とは、撹乱が無視できる成熟林であり、保護価値の高い森林に含まれる。

被通報者:
● タアン・ホールディングス(タアン・タスマニアの持株会社)はマレーシア・サラワク州の大手企業グループ。2005年に豪州タスマニアにタアン・タスマニア社が設立され、この時、SMB建材の前身の三井住友建材株式会社が15%の出資を行い事業に参画してきたが、近年撤退。タアン・グループの合板製品の主要な輸出先は日本である(注7)。
● SMB建材株式会社(タアン社の型枠合板の輸入企業)持株比率:住友商事(36.25%)、三井物産(36.25%)、丸紅(27.5%) 2002年に住商建材株式会社と三井物産株式会社建材資材部門が事業統合し、三井住商建材株式会社となり、2017年には三井住商建材株式会社と丸紅建材株式会社が事業統合し、SMB建材が設立された。

通報先:
東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会

通報内容:
有明体操競技場の建設に利用されたマレーシア企業のタアン社製の型枠における東京五輪における調達コードおよび木材の調達基準違反の可能性について、同社の子会社であるタアン・タスマニアが調達しているタスマニアで、絶滅危惧種のオトメインコの生息地が伐採されている問題を提起して、「生態系の保全に配慮」する基準に合致していない点を指摘。SMB建材が輸入業者として、タアン社製の合板の輸入を行なっており、関与が疑われる。

通報の目的:
東京2020大会で調達している型枠合板について、絶滅危惧種の生息地が喪失するような形で取得された木材が利用されている疑いがあることを指摘し、そうした問題のある木材がPEFC認証を得られているという現状を示す。こうした問題を示すことにより、今後の日本での木材調達における環境社会配慮において、木材認証制度の課題を認識し、適切な環境社会配慮を実施していくことの必要性を示すことを目的としています。

タスマニアでの伐採状況とオトメインコ:
昨年12月、学術誌の「Animal Conservation」に発表されたオーストラリア国立大学の研究によれば、野外で生息しているオトメインコはわずか300羽しか生き残っておらず、10年前に見積もられていた1,000つがいから激減した。研究チームのリーダーであるジョージ・オラー博士(Dr George Olah)によれば、前回の推定数と比べはるかに数が減ってしまったとし、伐採のような主要な脅威に対して早急な処置を講じなければならないことを物語っている、と述べている。タスマニアでしか生き延びることができないオトメインコの生息地である天然林ユーカリの森にとっていちばんの脅威は商業伐採である。

通報の背景:
タ・アン(Ta Ann)社やシンヤン(Shin Yang)社を通して日本の市場に供給されている木材製品の原料調達が、オトメインコの営巣地や他の絶滅危惧種の生息地である天然林の伐採の要因のひとつである。こうした木材需要はオトメインコや他の絶滅危惧種の生息個体数やオールドグロス林を含む保護価値の高い森林の減少に深く関わっており、そのサプライチェーンに連なるすべてのステークホルダーが責任ある対処を迫られている。

*報道関係の皆様:通報文書の閲覧をご希望の場合はご連絡ください。

注1)東京2020組織委員会「『持続可能性に配慮した調達コード』に係る 通報受付窓口 業務運用基準
※対象案件は「本通報受付窓口は、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の調達する物品・サービス及びライセンス商品(以下「調達物品等」といいます。)に関する案件であって、調達コードの不遵守に関する通報(調達コードの不遵守又はその疑いを生じ得る事実をその内容とするもの)について取り扱うことができるものとします」と定義されています。(太字はJATANで強調)
注2)東京2020組織委員会「コンクリート型枠合板の調達状況について」(註:組織委員会は解散したため現在、閲覧できません)
注3)熱帯林行動ネットワーク、ボブ・ブラウン財団『隠蔽された住宅建材』(2020年)
注4)東京2020組織委員会「持続可能性に配慮した調達コード」
注5)東京2020組織委員会「持続可能性に配慮した木材の調達基準」
2.③「伐採に当たって、生態系の保全に配慮されていること」と記述されている。
注6)オーストラリア国立大学 Swift action needed to help critically endangered paroot
注7)木材の調達基準では「3. FSC、PEFC、SGECによる認証材については、上記2の①〜⑤への適合度が高いものとして原則認める。」と記述されている。
注8) The Star, Ta Ann records increase in log harvest (2021年5月24日)

団体紹介
熱帯林行動ネットワーク(JATAN)は、マレーシア・サラワクでの熱帯林破壊の問題に取り組むため1987年に設立された団体。近年はインドネシアにおける紙・パルプやパーム油、サラワク産の合板製品を中心にキャンペーンを展開しており、サプライチェーンに連なる日本企業などへの働きかけを行っている。

本件に関するお問い合わせ先
熱帯林行動ネットワーク
担当:原田 Email:info[@]jatan.org

PAGE TOP