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インドネシア最大の紙・パルプ企業APP社による森林破壊とグリーンウォッシュの疑い(続)

JATAN NEWS 111号で、2017年12月に発表されたAP通信社によるスクープ記事1について取り上げた。インドネシア最大の紙パルプ製造企業であるアジア・パルプ・アンド・ペーパー(Asia Pulp and Paper、以下APP)社は、2013年に「森林保護方針(FCP)」の発表を通じて天然林を保護することを約束した。
APによる記事は、森林破壊や火災を引き起こしているサプライヤーに対してAPP社が強い影響力を保ちつづけていることで、部外者からは見えにくい系列関係の背後でこれらの問題に関与している疑惑を明らかにするという内容であった。APP社はこの指摘を真っ向から否定しているものの、その後も系列を通した森林破壊への関与を疑わせる事例が新たな証拠をもってNGOやメディアにより告発されている。今回はこうした最近の経緯についてまとめてみた。

1. FSS社とSRL社による天然林の皆伐とAPP社との関連性

 

複数のNGOによるネットワーク組織であるAURIGAのレポート2によれば、APP社は東カリマンタン州で天然林の伐採に関与している2つの企業から紙・パルプ製造の原料となる木材を調達していたという。これらの企業は、大手たばこ製造会社のジャルム・グループの創設者であるハルトノ一家が所有するファジャール・スルヤ・スワダヤ(Fajar Surya Swadaya、以下FSS)社とシルヴァ・リンバ・レスタリ(Silva Rimba Lestari、以下SRL)社である。
一つ目の事例となるFSS社は、東カリマンタン州の61,470ヘクタールにわたる地域で紙パルプの原料となる木材の植林事業を行っている。衛星写真を使ったNGOの分析によれば、FSS社が管理する地域では2013年から2017年の間に19,221ヘクタールの天然林が皆伐された。

図1
FSS社のコンセッション地域における天然林の減少を示した地図(AURIGAのレポートより)

もう一つのSRL社は、同じく東カリマンタン州の88,000ヘクタールの地域で操業を行っている。2013年以降、12,780ヘクタールの天然林が皆伐されており、事業者の納税記録に関する政府の報告書によれば、伐採された木材の中にはIUCNのレッドリストに危急種として指定されているウリンなどが含まれていたという。

図2
SRL社のコンセッション地域における天然林の減少を示した地図(AURIGAのレポートより)

APP社の報告では、これらの企業はいずれもサプライヤーとして記載されていない。しかし、インドネシア政府が公表している企業の木材利用に関する報告書から、FSS社から24,863立法メートル(トラック800台分)の木材が、リアウ州にあるAPP社のインダ・キアットペラワン工場に出荷されていることが判明している。また、SRL社からも14,726立法メートル(トラック500台分)の木材(1,151立法メートルの天然林を含む)が、APP社に関連する木材チップ工場Sarana Bina Semesta Alam(以下、SBSA)社を通じて同工場に運び込まれていることが判っている。

2. APP社による反論

これに対してAPP社は、2018年8月15日に発表した説明3の中でNGO側のレポートは「誤解や不完全な情報ばかりであり根も葉もない噂である」と主張している。また、FSS社とSRL社の両社とも、APP社の正式なサプライヤーとして承認されているわけではないという。これらの企業からインダ・キアットペラワン工場に木材が運び込まれた件については、APP社の説明によれば「管理上の誤り」によるものだという。その経緯は以下の通りである。
2017年、APP社はFSS社がサプライヤーとなる可能性を検証するためのサプライヤー評価とリスクアセスメント(SERA)を実施した。このSERAには書類評価と実地評価の二つのプロセスがあり、FSS社については書類評価をパスしたが、実地評価が完了する前の2017年11月1日にインダ・キアットペラワン工場に誤って木材が出荷されてしまった。その木材の採取地が、実地検証によりFSS社の植林地が高炭素林(HCS)に位置している可能性があり、また天然林が伐採されていることが確認されたため、最終的にAPP社の正式なサプライヤーとして承認しないという決定を下した。出荷されてしまった木材は、インダ・キアットペラワン工場の貯木場に保管されており生産には一切使われていないという。
Mongabay.comの記事4にはAPP社とNGO側の主張のやりとりが詳細に記されている。さきのAPP社の主張に対してNGO側は、そのような事実は書類評価のプロセスで明らかにできたはずであり、評価の実効性に問題があることを指摘している。APP社の言い分では、書類評価では衛星画像ではなく政府が公表しているランドサットの情報を利用しているが、これでは天然林の減少が自然減少によるものなのか意図的に転換されているのか判断ができないため、現場レベルのコンディションを見る必要があるのだと説明する。
NGO側は、他にもトラック800台分にも及ぶ大量の木材が出荷されていたことに関しても疑問を呈している。これに対してAPP社は、試験的な出荷にはサプライヤーが物流上の要件を満たすことができるか評価する目的も含まれているため、このくらいのボリュームを取り扱うことが一般的であると反論する。24,863立法メートルという数字は大きいように見えるが、一日分の原料にしか相当しないボリュームであるという。
また、SRL社から原料を調達していたSBSA社についても、APP社は所有またはコントロールを通じた関与を否定している。しかしNGO側は、2016年から2017年にかけてSBSA社からゴールド・イースト・トレーディング(Gold East Trading)社とハイナン・ジンハイ(Hainan Jinhai Pulp & Paper)社に木材チップが輸出されていたことを突き止めた。ゴールド・イースト・トレーディング社は香港と中国南部における唯一のAPP社の代理店であり、またハイナン・ジンハイ社はAPP社が中国に作った製紙工場である。さらにSBSA社はAPP社の複数の独立系サプライヤーを通じてAPP社と関係性を持っていることがNGO側の調査により明らかとなっている。

3. FSCによる関係断絶の解消に向けたプロセスの中断

このような流れの中で、森林認証制度であるFSC(森林管理協議会)は、APP社との関係断絶の解消に向けたロードマップのプロセスを一時中断することを2018年8月16日に発表した5。
FSCは2007年より「FSCと組織の関係に関する指針」を設けている。これは一部の森林において認証の要件を満たしていたとしても組織全体として問題がある場合は、その企業によって「環境に配慮している」と見せかけること(グリーンウォッシュ)を防ぐために企業による認証取得を一切許可しないというものである。APP社は、FSCの原則と基準に反して破壊的な施業を行っているとして、2007年12月にFSCから関係を断絶された6。
その後、APP社による抜本的な組織改革の動きを受けて、FSCは関係断絶の解消に向けたロードマップを条件付きで承認した。この条件というのは、ロードマップが達成されたかどうかを検証するための手法をステークホルダーとの協議に基づき作成するというものである。さまざまなステークホルダーを含む協議が進められていたが、今回の一連のスキャンダルを受けて、2018年8月16日にFSCは関係断絶に向けたこのプロセスを一時中断する決定を下した。その後、2019年4月現在までにアップデートは見られない。

4. 「森林保護方針」の発表から6年を迎えた今

APP社が「森林保護方針」を発表してから6年となる2019年3月15日、複数のNGOが共同でAPP社の進捗状況に関する声明7を発表した。この声明の中では、APP社とその関連企業がこれまでに引き起こした環境面・社会面への負の影響に対する取り組みにほとんど進捗がないことを指摘している。また結論として、APP社とビジネスを通じて関係を持つ企業や投資家に対して、FSCとの関係断絶の解消に向けたロードマップにある要求事項について、進捗が見られることが第三者による定期的な検証により証明されるまで、APP社やその関連企業との取引をしないように勧告している。
APP社は「森林保護方針」を発表してから、一貫して前向きに取り組む姿勢を強調しており、この度の一連のスキャンダルに関する問題の指摘に対しても、関連するステークホルダーに真摯に向き合っているような印象を受ける。しかし、NGO側が主張するように現場レベルを見たときにまだその取り組みは不完全なものであり、進捗に関する具体的な情報について公開されていないものも多い。JATANとしては、今後もAPP社に関連する詳細な情報を日本語で発信していきたい。

【注釈】
1 Wright, S. AP Exclusive: Pulp giant tied to companies accused of fires. Associated Press December 21, 2017 https://www.apnews.com/fd4280b11595441f81515daef0a951c3
2 WWF. APP and APRIL violate zero-deforestation policies with wood purchases from Djarum Group concessions in East Kalimantan. August 17 2018 https://wwf.panda.org/?333258/APP-and-APRIL-violate-zero-deforestation-policies-with-wood-purchases-from-Djarum-Group-concessions-in-East-Kalimantan
3 Asia Pulp and Paper. APP response to Auriga’s allegations of deforestation in East Kalimantan. August 15, 2018 https://www.asiapulppaper.com/news-media/press-releases/app-response-aurigas-allegations-deforestation-east-kalimantan-0
4 Jong, H. N. Report finds APP and APRIL violating zero-deforestation policies with wood purchases from Djarum Group concessions in East Kalimantan. Mongabay.com August 21, 2018 https://news.mongabay.com/2018/08/report-finds-app-and-april-violating-zero-deforestation-policies-with-wood-purchases-from-djarum-group-concessions-in-east-kalimantan/
5 FSC International. Asia Pulp and Paper (APP) https://ic.fsc.org/en/web-page-/asia-pulp-and-paper-app
6 FOREST STEWARDSHIP COUNCIL A.C. Forest Stewardship Council dissociates with Asia Pulp and Paper. December, 2007 https://www.wwf.or.jp/activities/upfiles/20080116opt_fsc.pdf
7 Martin, J. NGOs raise serious concerns six years into Asia Pulp and Paper’s commitment to reforms. Environment Paper Network. March 13, 2019 https://environmentalpaper.org/2019/03/ngos-raise-serious-concerns-six-years-into-asia-pulp-and-papers-commitment-to-reforms/

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