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サラワク州:先住慣習地を守るためにブロケードを続けるイバン人コミュニティ

サラワク州:先住慣習地を守るためにブロケードを続けるイバン人コミュニティ
― 巨大農園企業の開発阻止に立ち上がった草の根の抗議活動 ―

運営委員 原田 公

サラワク州サマラハン省シムンジャン郡のイバン人コミュニティがアブラヤシ農園企業の開発から先祖伝来の土地を取り返し、そして守るための闘いを粘り強く繰り広げている。今年3月末、住民組織が一糸乱れぬ結束力でブロケードという実力行動を継続していることをサラワク・ダヤック・イバン協会(SADIA)の事務所で聞き、メンバーのNiloh Asonさんの案内で当地を訪問した。7世代目に当たるというイバン人の三つのコミュニティ — シケンデュ(Kampung Sekendu)、リンカウ(Kampung Sungai Lingkau)、メランジュク(Kampung Melanjuk) — が、代々受け継いできた先住慣習地(native customary rights (NCR) lands)に対してアブラヤシによるプランテーション開発を進める重機の侵入を阻止するために道路封鎖(ブロケード)の闘争をはじめたのは2009年5月。現在の封鎖地は2018年1月20日にスタートさせたという。三村合わせて総勢100近くの世帯が参加している。グループによる交代制を取って連日、24時間の監視を続けている。

ブロケードの団結小屋でインタヴューに応じるサナブングさん(正面左)と住民たち 撮影: JATAN
ブロケードの団結小屋でインタヴューに応じるサナブングさん(正面左)と住民たち 撮影: JATAN

トレードウィンズ(Tradewinds)という農園開発企業は三集落が保有するおよそ5,000haの先住慣習地を破壊し、すでにうち2,000haでは造成しアブラヤシの苗木を植えるなどの準備を進めている。また隣接の約900haで、タブン・ハジ・プランテーションズ (Tabung Haji Plantations; THP)社は暫定的借地権(Provisional Lease:PL)の発効を政府から得ている。三つの村の近くにはBatang Sadongの支流、シムンジャン川が流れる。彼らのパイナップルなどを植えた果実園やゴム林、水田は泥炭湿地帯の一角にあった。ただ、いまでは周囲は企業が掘削したカナル(人工水路)が縦横に走り、かつての肥沃な土壌は乾燥化が急速に進んでいる。大雨が襲うと伐倒された樹木の残骸などによるデブリが障壁となって逃げ場を失った雨水が洪水の猛威を奮い、大切な農作物に大きなダメージを与えているという。村のロングハウスが並ぶ居住エリアや各村の墓地はいまのとろ破壊から逃れている。ブロケードを主導するサナブング・サンパイ(Sanabung Sampai)さんに話を聞いた。企業から送られたエージェントの訪問を受ける。一時金と引き換えに土地の権利の譲渡を迫ってくるという。開発に反対するコミュニティを内部から分断させるために農園企業が使う常套手段の一つだ。彼は語気を強めて言う。「一度この土地を手放してしまえば、将来世代に何も残せなくなる。これから生まれてくる子供たちのための闘いでもあるんだ」。

半島に拠点を持つトレードウィンズ社はマレーシア有数の巨大アグリビジネス企業のひとつに数えられている。サラワク州には1996年から進出し、暫定的借地権の発効を受けている既存企業の吸収合併を通して、サマラハン省からリンバン省にかけて延べ9万haの農園を所有している。その規模はサラワク州で農園を経営する半島系アブラヤシ企業の中で最大という。農園の多くは泥炭湿地帯に存在している。一方、タブン・ハジ・プランテーションズは1972年に設立されたマレーシアのパーム油生産の巨大企業。インドネシア・リアウ州に保有している用地20万ヘクタールの大部分は泥炭湿地帯の中に位置している。マレーシアでは半島、サラワク州、サバ州合わせて37の農園、延べ9.1万haの用地を所有している。RSPOのメンバー企業だが、認証自体に触手を伸ばしていない。 

トレードウィンズ社は先住慣習地を破壊後、アブラヤシ農園の造成を始めている 撮影: JATAN
トレードウィンズ社は先住慣習地を破壊後、アブラヤシ農園の造成を始めている 撮影: JATAN

先住慣習地はたびたび企業の侵入、農地の破壊による被害を受けている。これまでに数回、警察にレポートを提出しているが、警察が現場に来て具体的な対策を取ったことはない。一方で、企業の申し立てを理由に彼らが犯罪者に仕立て上げられるケースは少なくない。2012年12月にサナブングさんら運動のリーダー格三名が、トレードウィンズ社が所有するアブラヤシの果実を盗んだとの告発によって警察に逮捕された事件は法廷に持ち込まれた。敗訴が言い渡されたものの容疑を否定する住民たちはNCRを守るための法廷闘争と位置づけて翌年、控訴審に提訴した。

2016年6月、サラワク州のミリ市内で起きた野党・人民公正党(PKR)幹部ビル・カヨン(Bill Kayong)氏の殺害事件。カヨン氏はNGOダヤク人協会(PEDAS)のメンバーとしてアブラヤシ農園企業Tung Huat Plantation Sdn Bhdによる先住慣習地の収奪問題に深く関わっていた。事件の黒幕とされるステファ・リー・チーキアン容疑者はこの農園企業の幹部の一人であった。事件から一年後のミリ高等裁判所の公判に、国際刑事警察機構(インターポール)を通じて国際指名手配されていたキアンをふくむ容疑者3名が出頭した。日中の市街地で発生した人権活動家の残忍な銃殺事件の裁判にはマレーシア国内のみならず国際的にも大きな注目が集まっていたが、容疑者3名は証拠不十分の理由で無罪放免が言い渡された。NGOばかりかメディアからも「茶番劇の裁判(travesty of justice)」との悪評が立ったのは言うまでもない。

農園企業による先住慣習地の土地収奪をめぐる裁判闘争では最近、マレーシア連邦裁判所で、狩猟や非木材林産物の採集をおこなってきた森林(pulau galau)やそれを取り巻くテリトリー全体(pemakai menoa)に対して先住慣習権を否定する判決が相次いで下されている。こうした事態は土地に深く根ざした伝統的な生活を維持したい先住民族にとって八方塞の状況をつくりだしている。ブロケードという実力阻止は苦渋の選択の末に彼らが選び取った唯一の防衛手段なのだと納得する。犯罪に巻き込まれる不安を抱きながらも続けるサンブングさんたちの熾烈な闘いの行く末を案じてやまない。

ブロケードを続けるイバン人コミュニティの人たち 撮影: JATAN
ブロケードを続けるイバン人コミュニティの人たち 撮影: JATAN

【おもな参考文献】
Cramb, Rob, and John F. McCarthy, eds. The oil palm complex: Smallholders, agribusiness and the state in Indonesia and Malaysia. NUS Press, 2016.
Suara Rakyat Malaysia (SUARAM), “MALAYSIAHUMAN RIGHTSREPORT 2016”.
Villagers put up blockade”, The Star, 2 September, 2014,


Video Message: Sanabung Sampai and his People Fighting for their NCRs
《サナブングさんからのビデオメッセージ 》
・日本やEUのパーム油の顧客にこの場所で起こっていることを知ってほしい、そして支援の手を差し伸べてほしい
・NCRは住民たちにとって何より大切な財産だ
・自分たちは未来世代にこの財産を受け渡すために結束して闘いをつづけていく


Blockade Site: NCR Defenders (Kg Sekendu, Kg Melanjok and Kg Sg Lingkau)
《Unified Iban Communities 24hour Protest against Tradewinds and Tabung Haji (provisional lease) 》

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