会員・ボランティア募集中

インドネシア:オラン・リンバ~プランテーションの中に住む人びと~ フォトジャーナリスト 内田道雄

この記事はJATAN NEWS 88号に掲載されているものです。JATANの会員になって頂くことでJATAN NEWSを購読することができます。

→JATAN NEWSの購読はこちらより

インドネシアのアブラヤシプランテーションの木と木の間に小屋を建てて暮らす、狩猟採集民族たちがいる。家の中ではこのように煮炊きも行っている

アブラヤシ農園の拡大

インドネシアでは、アブラヤシ・プランテーションの拡大が急速に進んでいる。アブラヤシとは、その名のとおり油脂が取れる椰子だ。この油はパーム油といわれ、日本は年間50万トンほどを輸入している。

この油がいわゆる「地球にやさしい洗剤」に使われているのは、知っている人も多いだろう。実際には、その8割は食用として消費されており、マーガリン、ケーキ、クッキー、即席麺、チョコレートやアイスクリームなどに使われている。

また最近はバイオ燃料にも使われる。2009年の世界の生産量は4,667万トンで、植物油としては最大の生産量である。国別の生産量はマレーシアが1,788万トン。インドネシアが2,203万トンで、この2カ国で世界の生産量の8割以上を占める。

インドネシアのアブラヤシ・プランテーションは1995年に約200万 ha だったが、2009年には約732万 ha に急増している。さらに1,300万 ha もの増産計画がある。

アブラヤシの実は、収穫後迅速に処理しないと含まれている油の品質が落ちる。そのため、農園の近くに搾油工場を置く必要がある。工場はある程度の処理量がないと採算が取れないから、アブラヤシは大規模なプランテーション方式で生産されている。プランテーションは広大な面積を必要とするため、開発地域に住む人びとに重大な影響を与えている。

インドネシアの少数先住民族、オラン・リンバの子どもたち。食べるためのカエルを探している

農園の中に人の住む小屋が

アブラヤシ・プランテーションは、伝統的な生活を営む先住民族の人たちにも多大な影響を与えている。それを見に、ジャンビ州南部のバウムナン村を訪れた。

村の周りにはアブラヤシの農園が広がっている。その中に入ると奇妙な光景が見られた。アブラヤシの木の間にテントのようなものが見える。近づくと、小屋のように床も貼られていて、人間が住んでいる。この人たちはオラン・リンバと呼ばれる狩猟採集民だ。数軒で一つのグループをつくり、定住せずに簡単な小屋を建てるだけで移動しながら暮らしている。

彼らはなぜプランテーションの中に住んでいるのだろうか。話を聞いてみると、以前は3kmほど離れた所に住んでいたが、森が伐り拓かれ狩猟採集の生活ができなくなり、ここに移ってきたという。

だがここでも狩猟採集の生活は続けている。彼らは手づくりの銃を使い、狩りをして、獲れた動物の肉や、野生のびんろう、ゴムの種などを売って生計を立てている。現金収入があるようで、居住地にはオートバイやテレビ、発電機などもあった。

彼らはインドネシアという国の存在すらよくわかっていないようだ。彼らになぜ家を建てないのかを聞くと、建て方を知らないし、これが自分たちの生き方だからだと言う。

村人と対立が起きないのかと思うが、大きなもめごとは無いようだ。彼らが住んでいるのは村人の農場で、企業のものではない。収穫労働をしている村の人に話を聞くと、ずっと居座るわけではないので困ることは無いという。彼らが一カ所にいるのはほんの一月ほどなので、アブラヤシの収穫などもできるということだ。インドネシアらしいといえばそれまでだが、住民の人たちのやさしさを感じた。

アブラヤシ農園の中に建つ小屋
オラン・リンバの家族
オートバイなども持っている

少数民族の子どもと学校

驚いたことに、プランテーションの中から学校に通っている子どももいた。歳の男の子はクラスで1番の成績を取ったという。

その学校の先生に話を聞くと、オラン・リンバの子どもは話を聞くのが苦手だという。確かに、自由な森の中で育ってきたのだから、じっと座って話を聞くのは難しいことだろう。

差別的なことは無いとはいえないが、ひどいものもないらしい。入学したばかりのころは彼らだけで遊んでいたが、言葉ができるようになると他の子どもたちとも遊ぶようにもなる。

先生自身は25歳の女性ということもあり、正直に言えばオラン・リンバの人は怖いと思うこともあるという。物乞いに来て、何かあげるとまた来るので困るという。洗濯物を取られないように家の中に干すこともある。しかし教師である以上差別をすることなく接している。他の子どもたちにも人間はみんな同じなのだと教えているということだ。

政府も定住政策を進めている。政府がつくった居住地に行ってみると10m四方ほどの家が数軒立ち並んでいる。この家は2003年に地方政府がつくったという。12 軒建てられたが、5軒しか使われていない。井戸が無いので川まで水を汲みに行くのが大変だという。

オラン・リンバの人たちがいつまでもプランテーションの中に住み続けられるとは思えない。何らかの対策をとりきちんとした生活ができるようにすることが必要だ。

アブラヤシ・プランテーションを巡る軋轢はさまざまな場所で頻出している。スマトラ島では問題のないプランテーションを探すほうが難しいほどだ。開発をする場合は、地元住民との十分な話し合いをして、たとえ時間がかかっても、双方が納得の行く方法を考えなければならないだろう。

政府がオラン・リンバのために建てたという家
PAGE TOP