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元チャワングミリール集落住民への代替地の提供等に関する公開質問状に丸紅が回答

2022年04月24日掲載

JATAN運営委員 原田 公

チャワングリミール集落では、2015年、2016年と2回にわたる、治安部隊の帯同をともなう強制収用によって、農地ばかりかイスラーム礼拝堂や学校などの公共施設、居住家屋(約200戸)のすべてが破壊された。生活基盤を根こそぎ奪われたおよそ900名の住民たちは近隣のブミ・マクムル村など他所への避難を余儀なくされた。それから7年、四散した元住民の多くはいまだ過酷な避難生活を送るなか、互いに連絡を取りつつ帰還の日が来るのを待ち続けている。

昨年6月にJATANをふくむNGOと研究者が連名でムシ・フタン・ペルサダ社(PT. Musi Hutan Persada: MHP)の親会社である丸紅に「元チャワングミリール集落住民の生活再建のための支援にかかる要望書」を発出した。しかし、丸紅の回答はあまりにも具体性に欠け、内容も不十分だった。同年9月の同じ連署者たちによる「元チャワングミリール集落住民への代替地の提供等に関する公開質問状」は、あらためて丸紅およびMHP社の真意をただすために発せられた。昨年12月に送られてきた「回答」は下記に全文を引用する。

今回の「公開質問状」では、丸紅から回答はおろか言及すらされていない箇所がいくつかある。それは丸紅の人権方針に関わる質問である。質問5でわたしたちは、「丸紅グループ人権基本方針」に示されている人権保障のための救済システム(苦情処理メカニズム)を使ってチャワン集落住民の補償をおこなえるか否かをただした。さらに質問6では、「強制排除」という事実を同方針で謳われている「関連するステークホルダーとの対話と協議を真摯に行」うという誓約とどう整合性をもたせるのかと訊いている。しかしいずれの質問も「回答」では一言も触れられていない。

わたしたちのこうした懸念をまともに取り合おうとしない姿勢は、2021 年6 月に発出した、元住民の生活再建支援を求める「要望書」に対する「回答」でも同じようにうかがえる。わたしたちは「今回の強制排除は、取り得るさまざまな手段を講じた後にやむを得ず『最後の手段』として行われたものとはみなせません。こうした問題解決のやり方は、御社が定める『人権基本方針』に反する」など、丸紅が主張する倫理的な救済措置がなぜ、チャワンに関してはまったく取られなかったのかと指摘した。これに対する「回答」はあまりに素っ気ない。

“MHP 社にて各ステークホルダー(現地住民、現地 NGO、監督官庁)と協議を続けてまいりましたが、政府指導のもと、代替候補地の選定、政府への返還を完了しており、同代替地の元住民への提供等につきましては、政府主導で手続きが進められていると理解しております”

このように、企業の人権方針との関りをただす質問を等閑視する一方で、ふたつの「回答」の随所にわたって垣間見られるのは、現地国政府を恃(たの)んで自らの当事者責任を回避しようとする丸紅の振る舞いである。じつはチャワン集落の強制退去をめぐる丸紅の没主体的なスタンスは、ふたつの「回答」に限らない。2016年から2017年にかけて行われたNGOとの会合でも、同じ口実を持ち出してみずからの責任に立ち向かおうとしなかった。

もし、「県林業局が主導的な役割を執って排除を実行した」と述べるように、丸紅(MHP)の手がおよばない、現地国政府による高次の行政判断によるものだと仮定しても、「排除」しなければならない根本的な原因が自社コンセッション管理の深刻な瑕疵に由来することは揺るぎのない事実である。つまり、およそ30万ヘクタールにもおよぶというコンセッション管理自体に大きな問題があったのである。責任の所在をめぐる議論で現地国政府を前面に持ち出して主体を韜晦しようとする主張は、かえって自らの無為無策を顕わすことに他ならないのではないだろうか。チャワンの住民たちは、「排除」の数か月前に県の林業局から指摘されるまで土地占有の違法性を認識していなかった。さらに、そうした「不法」住民たちが生活基盤を築くまでの数年間、コンセッション内の「造林・保育労働者」として働いていたことが研究者による現地での聞き取りで明らかにされている(笹岡 2021)。自らの過誤によらず「不法占拠者化」された住民たちはじつは、MHPを下支えするようにその事業運営の一部に組み込まれていたという事実をMHPは認識していない。

丸紅は「グループ人権基本方針」の中で、その適用範囲を「地域社会」にまで含めること、また、「適用法令の遵守」として、「丸紅グループは、ビジネス活動を行う国・地域における法令および規制などを遵守します。また、国際的に認められた人権と各国の法令などに矛盾がある場合には、国際的な人権原則を尊重するための方法を追求していきます」と述べている。さらに、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ(HRN)が2019年におこなった、丸紅を含む総合商社7社に対する人権に関する方針と実施状況のアンケート調査でも、国内法と国際人権基準が矛盾するような場合は国際基準を優先させる旨の回答をしている。

途上国と呼ばれる海外の地で開発事業を進める丸紅のような巨大企業が、たとえ不法に占拠したとしても当地に生活の基盤を築いて数年を経ている住民たちを強制的に排除するような対応は、道義上、決して容認されるはずもない。もし仮に移転をおこなおうとするなら、同じ事業地内に適切な代替地をあらかじめ用意したうえで平和的な説得を怠らない努力をつづけるべきではなかったか。

国際法優先による人権重視の誓約と、チャワン住民の強制排除、その後の代替地提供含む補償の不作為の間には間違えようのない深刻な落差がある。この落差をわたしたちはどう理解すべきだろうか。


(2021年12月20日付)「元チャワングミリール集落住民への代替地の提供等に関する公開質問状」のご送付

当社社長及び当社事業会社PT Musi Hutan Persada(MHP)社社長宛に頂きました2021年9月13日付、「元チャワングミリール集落住民への代替地の提供等に関する公開質問状」につき、下記にてご返答申し上げます。

ご質問1: 「要望書」では、元チャワングミリール集落住民のチャワンへの帰還の可能性について検討していただくよう要望しました。この点について検討が行われたのか、行われたとすればそれがどのように行われたのか、また、どういった理由でチャワンへの帰還ではなく代替地を提供するという判断に至ったのか、教えていただけないでしょうか。
回答1: 当該地区での居住が不法占拠ではあるものの、MHP社としては、彼らの帰還の可能性についても配慮をして検討致しました。然しながら、当該地区は「1996 年第38号林業大臣決定」時に、「保護区域」に指定されており、MHP社として、正規に保護区域に定められた当該地区の区分を変更することが不可能であるため、中央・地方政府と協議し、環境林業省の方針に従って代替地を選定した次第です。

ご質問2: ご回答では、「代替候補地」の選定とその土地の政府への返還が完了したとあります。また、インドネシアのメディア「Liputan 6」の7月16日付の記事によると、MHP社職員の発言として、チャワングミリール集落住民の移転先候補のひとつとしてMHP社はTerasと呼ばれる385ヘクタールの居住に適した土地について議論をしている、とあります。この土地が、ご回答にあった「代替候補地」のことを指すのでしょうか。「代替候補地」の位置、それが含まれる行政区の名前(どの村に含まれる/隣接する土地なのか)、面積を教えてください。
回答2ご指摘の通りMHP社として政府へ返還した土地はTeras地区(Musi Rawas県)です。同地区は保護区域にあった不法占拠場所から西の方向に約7kmの距離にあります。一方で返還地に関する各種権限は環境林業省にあるため、面積などの詳細につきましては差し控えさせて頂きます。

ご質問3: 「代替候補地」の選定は誰がどのように行ったのか、また、その選定プロセスにおいて、元チャワングミリール集落住民や彼らの支援をおこなってきた「インドネシア環境フォーラム・南スマトラ(WALHI Sumsel)」への事前の情報提供や相談が行われたかについて教えてください。
回答3: 2017年にMHP社はPanglero地区を代替地として提案致しました。同地区は肥沃でかつ平坦な地域であることから居住地としての条件に適している場所と考えましたが受諾して頂けませんでした。提案可能な場所が決して多くない中ではありましたが、MHP社はその方々の居住先について真摯に中央・地方政府と協議し、環境林業省の方針に従って代替地を選定し、返還致しました。

ご質問4: 代替地の提供にかかる今後の手続きは、政府主導で進められると理解している、とご回答に書かれています。今後の代替地提供のプロセスに、御社およびMHP社はどのような形で関わるご予定でしょうか。そのプロセスにおいては、チャワングミリール集落住民を代表する組織であるチャワン森林農民組合(Kelompok Tani Hutan Cawang)の参加はもちろんのこと、住民から信頼を得ている「インドネシア環境フォーラム・南スマトラ(WALHI Sumsel)」のようなNGOがそのプロセスをファシリテート(側面支援)することが必要であると考えます。この点について、御社としてどのような対応を考えていらっしゃるか教えていただけないでしょうか。
回答4: MHP社は中央・地方政府と協議の上で、代替地を返還致しました。今後の当該土地提供のプロセスに関しては、権限が環境林業省にあるためMHP社は今後の経過を見守ってまいりたいと考えています。尚、元WALHI幹部が環境林業省に勤務されていると伺っており、先方に環境林業省とのコミュニケーションルートがあると理解しております。

ご質問5: 「要望書」では、強制排除によって破壊された地上物への補償を行うよう要望しました。この点について、インドネシア環境フォーラム・南スマトラからは、強制排除で破壊された地上物には、住民の家屋や農地のみならず集落の公共施設(学校など)が含まれており、これらに対する補償も必要であるとの意見や、物的な被害だけでなく強制排除が住民にもたらした精神的被害についても補償をすべきであるとの意見が寄せられています。御社の「丸紅グループ人権基本方針」では、「丸紅グループのビジネス活動が、人権に対する負の影響を引き起こした、あるいは関与したことが報告される仕組み(苦情処理メカニズム)を構築します。その仕組みを通じて、当該影響・関与があったと判断した場合には、十分な事実確認を行った上で、適切な手続きを通じてその救済に取り組みます」と述べられています。この「苦情処理メカニズム」を通じて、元チャワングミリール住民への補償を真剣に検討していただきたいと私たちは考えます。この点について、御社として今後どのような対応を考えていらっしゃるか教えてください。
回答5: MHP社は産業植林コンセッションホルダーとして不法占拠から土地を守る義務があり、当該地区は「保護区域」の不法占拠事案であることをご理解ください。斯様な状況ではありましたが、MHP社としては、話し合いによる双方が納得出来る解決を前提として対応を続けて参りました。不法占拠が始まった2011年当初より、MHP社から不法占拠者に対し不法占拠は違法であることを口頭のみならず、退去勧告の正式レターを出状(2回)することで周知を促すと共に理解を求め、元の居住地(ランプーン州やジャワ島)に戻る様に立ち退きの説得を行って参りました。また2015年6月には、地方政府がコミュニティのリーダーを招いて不法滞在の解決に向けた会合が開催されております。2016年4月には、不法占拠区域から移動し近隣の村々に住んでいた元不法占拠者に食料支援を行なうと共に、不法占拠区域に彼らが植えていたキャッサバを収穫してもらうことにも合意しました。2016年6月には不法占拠者に対し、彼らが移住前に住んでいた場所に戻るための移動費もMHP社は一部負担しています。しかし、前述のMHP社の取組みに対しても一部の不法占拠者により不法占拠状態が継続したことは残念ながら事実であり、この状況を受けた政府が判断した上でアクションが起こされたものです。

ご質問6: インドネシア国営通信(ANTARA)は、「要望書」へのご回答をいただいて間もない今年8月14日、ムアラエニム県スギハン村住民が十数年以上前からゴム園及びアブラヤシ園として利用してきた土地約15ヘクタールをMHP社が重機で破壊したと報じています。御社の子会社が事業地確保のために、このような抑圧的で強硬な手段を再び採られたことに対して私たちは強い遺憾の念を抱いています。御社が定めている「丸紅グループ人権基本方針」では,「人権を侵害しないこと」、および、「本方針に沿った取り組みの推進において、関連するステークホルダーとの対話と協議を真摯に行」うことが謳われています。これらの方針に照らして考えた時、今回の強制排除はどのような理由で正当化できるのでしょうか。御社のお考えを教えてください。
回答6: 当該土地は、FL(Forestry Land)として環境林業省が管轄し、植林地として指定されている場所となります。また当該土地はMHP社に管理義務があり、地域住民が許可なく耕作することはできません。また、植林地として指定されている場所での不法な耕作である点は、前述の「保護区域」の不法占拠事案とは性格を異にしていることをご理解ください。MHP社は彼らに対して、当該土地は利用不可である旨を、地方政府を交えながら、2019年より複数回説明・通知を行ってまいりました。然しながら不法な耕作が解消されないため、地方政府に報告・相談の上で実施したものです。

ご質問7: 今後、MHP社の事業地において、農業その他の活動を行ってきた住民と、MHP社とのあいだで土地をめぐる問題が起きた場合、御社が定めている「丸紅グループ人権基本方針」の理念に従って、抑圧的で強硬な手段ではなく、対話を通じて問題を解決していただきたいと考えます。この点について、御社がどのようにお考えか、教えてください。
回答7: MHP社は産業植林コンセッションホルダーとして現地の法令や環境林業省の許認可に基づいた対応を行っておりますが、上記の通り、不法占拠事案であっても、政府関係者を交えながら、説明を繰り返してご理解を求める等、今後も段階を踏んだコミュニケーションを心掛けてまいります。

以上、宜しくお願い申し上げます。
丸紅株式会社
サステナビリティ推進部
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【以下、参考画像】
住民の畑を破壊するMHPのブルドーザ (画像提供: Walhi Sumsel)

「強制排除」に向かう治安部隊(撮影: 2013年3月17日 WALHI Sumsel)

 

「避難所」に身を寄せる元チャワン集落の住民たち (撮影: 2016年8月13日 JATAN)
「避難所」に身を寄せる元チャワン集落の住民たち(撮影: 2016年8月13日 JATAN)

 

チャワンへの帰還を望む避難民からなる住民組織チャワン森林農民組合の代表者。ブミ・マクムル村の住人に雇われ日雇いのゴムの収穫に従事している(画像: Liputan6.com)
チャワンへの帰還を望む避難民からなる住民組織チャワン森林農民組合の代表者。                  ブミ・マクムル村の住人に雇われ日雇いのゴムの収穫に従事している(画像: Liputan6.com)

以上

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