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リアウ州カンパール半島の「村落林」申請プロジェクト

2012年10月30日掲載

リアウ州カンパール半島の「村落林」申請プロジェクト
JATAN運営委員 原田 公

1. インドネシアの激化する土地紛争
土地改革コンソーシアム(Konsorsium Pembaruan Agraria)のデータによれば、最近の三年間で土地利用を巡る地元住民と企業の間で紛争が激化している現状がうかがえる。今年は6月24日現在ですでに、101件の紛争が記録されており、過去2年と比べても急増ぶりがわかる。企業のプランテーション開発に絡むものが最も多い。深刻なケースとしては、南スマトラとランプンの両州にまたがるメスジ(Mesuji)と呼ばれるエリアでアブラヤシ農園と住民グループの間で暴力事件が連続している。ジャカルタ・ポスト紙によれば、2008年以来少なくとも32人が死亡しているという。リアウ州でも紙・パルプ系列企業に関連するアカシア植林開発事業(HTI)を巡る軋轢が後を絶たない。シアック県(Siak Regency)のパダン島(Pulau Padan)では昨年7月に作業員一人が死亡した。エイプリル(AIPRIL)社の製紙部門を担うRAPP(Riau Andalan Pulp and Paper)に対する現地の抗議活動は依然として続いている。また、今年6月には、ドュマイ(Dumai)近郊のセネピス(Senepis)地域にあるアジア・パルプ・アンド・ペーパー(APP)のサプライヤーのひとつ、サンタラ・ガジャ・ パティ社(PT. Suntara Gaja Pati)によるアカシア植林地内の水路で住民の変死体が見つかった。現在、国家人権委員会が調査に入っている模様をアイズ・オン・ザ・フォレスト(Eyes on the Forest: EoF)が伝えている(9月11日付ニュース)。EoFによれば、当時、村の住民とSGPの間で軋轢が生じていたという。

JATANではこうした対立の緩和策としての「村落林」申請に関わるプロジェクトを進めている。以下、現地視察の結果を盛り込みながら、カンパール半島の「村落林」の現状を報告する。

2. 「村落林」
国家土地庁(BPN)によれば、インドネシア林業省は村落林を含むコミュニティ林の承認面積を2009年までに40万ha、2012年までに200万haにまで拡大するという野心的な目標を掲げている(2012年5月23日付KOMPASデジタル版)。しかし2012年5月現在、「村落林」として登録された面積は全国で83,401haにとどまっており、机上の空論といわれても仕方のない状況だ。スマトラでは西スマトラ州、ジャンビ州では確実に登録件数が増えているものの、アブラヤシ農園(HGU)とアカシア植林(HTI)の企業によるコンセッションが多くの土地を占有しているリアウ州では登録例はいまだに存在しない。
「村落林(Hutan Desa)」は2008 年、林業大臣規則第49 号(Permenhut P.49/Menhut-II/2008)によってスタートした住民参加型森林管理スキームのひとつである。生産林にも保護林にも与えられ、35年間の森林管理権が村に付与される。永久的な土地利用が国から認められる仕組みではなく有限の貸与であるところから、人権系のNGOによってはこうした国のスキームを支持しない団体もある。しかし、たとえリースとはいえ森林の自律的な管理権を住民が行使できる制度に対しては、多くのNGOが《次善の策》として普及を進めようとしている。とはいっても、情報や人的なリソースの限られている遠隔村にとっては、申請から国の承認にいたるまでの複雑なプロセスは非常にハードルが高いといえるだろう。森林域のマッピングひとつをとっても住民だけでは難しく、さらに地元の県政府森林局との折衝はNGOのファシリテーションがなければ困難だ。
リアウ州で「村落林」がいまだ登録されない理由はいくつか考えられる。「村落林」の承認プロセスで最も大きな影響力を持つのは地元の県政府(Regency)である。カンパール半島では、REDD促進の「生態系復元コンセッション(Ecosystem Restoration Concession: ERC)」の取得にいくつかの企業が名乗りをあげている。県長(Bupati)が同じコンセッションを許可するなら、民間からの投資を呼び込めるREDDプラスというクレジットシステムの方により大きな魅力と「うまみ」を感じるだろう。別のガバナンスの問題として、県政府の林業セクターの役人が「村落林」のシステムを十分に理解していない現状が挙げられる。「村落林」申請を進める或る村のリーダーから聞いた話だが、県の森林局を訪問した際に、「「村落林」にしていったいどんな樹種の植林をしたいのだ?」と役人からいわれたという。また、別の村では、国の林業省でも県の森林局でも一般に、役人たちはコミュニティとの協働を好まないし、森林の自律的な管理能力という点でコミュニティを信頼していないと、村の幹部は嘆いていた。NGOなどのファシリテーションは村ばかりでなく、こうした役人たちにも行わなければならないのだろう。

3. トゥルク・ビンジャイ村とトゥルク・メランティ村
カンパール半島 (Kampar Peninsula)にとって最大の脅威は、リアウ州に巨大なパルプ工場を持つAPPとエイプリル社という製紙企業である。国が定める4つの鳥獣保護区と内陸深部の深い泥炭層帯を除けば半島のほとんどのエリアは両企業に木材原料を提供する伐採会社のコンセッションで占有されている。沿岸部にはいくつかのコミュニティが存在する。筆者はこの数年間で六つのコミュニティを訪問した。ひとつの村を除いて訪問・滞在したすべての村でAPP、エイプリル社のいずれかの系列企業と深刻な対立を抱えていた。中でも最も象徴的な例は、半島南端に位置するトゥルク・ビンジャイ(Teluk Binjai)村だろう。住民が何世代も前から受け継いできた慣習的な森林のすべてがRAPPのコンセッションとして収用されてしまった。住宅や畑など村の敷地自体がコンセッション内にあるという。
RAPPは補償としてトゥルク・ビンジャイの住民に「コミュニティ・ガーデン」と称する1,220haのゴム園の提供を申し出た。最初の収穫が終わった時点でそっくり住民側に譲渡される契約だったが、依然実現していない。このゴム園は村の居住サイトのカンパール河を隔てた対岸に位置している。今年の9月、イドゥル・フィトゥリが明けた後に現地を視察した。岸からおよそ1kmに渡って住民たちのアブラヤシ農園が続く。生育状況は悪い。多くのサルたちがアブラヤシの樹上間をけたたましい声を上げて駆け回っている。ガイドの住民がいうには、RAPPが森林を皆伐してからサルの出没数が増えた。森の果実や木の実がなくなって代わりにアブラヤシの実を食べるようになったのだろうという。アブラヤシの列を過ぎると、野生のサゴヤシ(Metroxylon sagu)やパンダナス(Pandanus)の仲間が見えてきた。やがて、ゴムの苗木らしきものが植わっている個所に出くわす。一帯は深い泥炭層だ。RAPPが植栽後、少なくても2年は経っているというが、とても収穫が期待できるほどの大きさには成長していない。すでに枯死しているものもある。管理の悪さは明らかだ。RAPPの不誠実な対応には多くの住民が不信を募らせている。

RAPPのアカシア植林と水路(トゥルク・ビンジャイエリア)

RAPPによるゴムの苗木 周囲の雑草と見分けがつかない

この話を隣のトゥルク・メランティ(Teluk Meranti)の村の幹部にしたところ、メランティの方でも事情は同じという。RAPPによる補償は約束通りに履行されていない。ゴム園の譲渡がもし、今年中に実現しなければ代わりに金銭による賠償を請求するという。トゥルク・メランティの場合、RAPPによる土地収用後も村落林の一部(2,265 ha)は残っている。現在は、ミトラ・インサニ(Yayasan Mitra Insani: YMI)のファシリテーションを受け入れて、隣接のプラウ・ムダ(Pulau Muda)村の村落林(9,604 ha)と併せた「村落林」をパララワン県(Pelalawan Regency)に申請する手続きを取っている。

4. トゥルク・ラヌス村
カンパール半島の北側でも「村落林」申請プロジェクトを進めるYMIのメンバーとともに、トゥルク・ラヌス(Teluk Lanus)を訪問した。リアウの州都パカンバル(Pekanabaru)からシアック県の港湾町、メガパン(Megkapan)までクルマで4時間。そこから村から呼び寄せた小型漁船に乗り換え5時間かけて目的の村に着いた。テビン・ティンギ(Tebing Tinggi)島と半島の間を走るセラト・パンジャン(Selat Panjang)と呼ばれる海峡をひたすら東に向かう。途中、溢れるような木材を積んだ大型ポンツーンに遭遇する。半島北側のコンセッション地から切り出された熱帯材で、メガパンの港、ブトン(Buton)で陸揚げされ、トラックに積み替えられてケリンチのパルプ・製紙工場、RAPPに運ばれるという。小さな漁船から見上げると、虚空に浮かぶ巨大な飛行船を思わせる。ポンツーンによっては、半身を海中に没しかけているものもある。最大積載量を超えているのだ。その貨物がすべて天然林なのだから驚きだ。会社の警備員が通報したのだろうか、カメラを向けて写真を撮って数分後、警察の海上パトロールがサイレンを轟かせこちらに接近してきた。乗船したパトロール員は船倉までチェックしていたが、そこには市場に出すココヤシの実があるだけだ。無言のまま立ち去って行った。

RAPP木材積載船 過積載で半身が沈みかけている

YMIのファシリテーションは2010年からはじまった。これまでに住民とともに参加型マッピング、ジェルトン(jelutong)の植栽、泥炭水の流出を食い止めるカナル・ブロッキングなどの活動を行ってきた。村に到着した翌日、YMIの2名のメンバー、住民4名とともに「村落林」申請エリアの視察に出かける。村落林は村に隣接しているわけではない。アクセスするには村から半日あるいは丸一日を要するところもある。トゥルク・ラヌス村の場合も、旧型のエンジンを搭載した小型漁船で片道7時間も要する。熱帯低湿地林に囲まれた4つの鳥獣保護区のひとつ、Tasik Belatという2.529 haの湖沼の近くにそれは存在する。セラト・パンジャンを4時間ほど西方に戻ったところでアピット河(Sungai Apit)から半島内陸部に入る。水面の色が褐色に変わる。泥炭水だ。この一帯は昔、トリオ・マス(PT. Trio Mas)という木材会社が森林事業権(Hak Pengusahaan Hutan: HPH)を取得して大径木を伐採していたという。そのコンセッションの有効期限はすでに失効している。トリオ・マスの施業残材だろうか河底に大きな幹が何本も沈んでいて船の行く手を阻む。河畔湿地の光景がニッパヤシからサゴヤシに変わる。違法伐採業者の家族が住む家屋が見えてくる。その背後で火入れの煙霧が高く立ち上っている。さらに進むとRAPPのアカシア植林が姿を現す。Tasik Belatに近づく。保護区域に入ったはずだが二次林の中にアカシアの木々が沿岸から見通せる。APPのサプライヤー、アララ・アバディ(Arara Abadi)が植えたものだ。聞けば、政府の指導で会社が事業の撤退を余儀なくされ、そのまま放置されているのだという。湖が見えてきた。静謐な泥炭水を湛えた美しい光景が一挙に広がる。昨年、村がYMIと協働で行ったマッピング調査時にトラが河畔近くで目撃されたという。ただし、保護区のバッファゾーンはわずか幅が2キロで、その後景にはアカシア植林が拡大しているのだという。村の村落林はさらにその奥だが時間はすでに夕刻。しばしの滞在でトゥルク・ラヌスに引き返すことにする。

外部からやってきた違法伐採業者の小屋

鳥獣保護区を示す標識 RAPPのロゴが入っている

アピット河からタシク・バラットに入る

住民に恵みを与えてくれるタシク・バラット

住民有志による「村落林」申請のための委員会が組織されている。そのメンバーたちにインタヴューをした。ユドヨノ大統領による気候変動抑制策や違法伐採対策については理解しているという。ただ、住民にとって一番の懸念は村の経済状態だ。「数年前までは住民の7割は森からの伐採で食べていたんだ」と青年リーダー格のP氏は語った。HPHの会社やサゴヤシ農園などで往時は栄えていたらしいが、いまの小規模アブラヤシ農園やゴムの栽培では、成果物を卸す市場から遠いこともあって大きな収入源にならないようだ。鳴き声の美しい”muraidaun”という種類の野鳥を近くの森で捕獲して業者に売る以外に生計を得るすべはないと、前日にTasik BelatのガイドをしてくれたT氏は言った。アピット河で目撃した違法伐採に話を向けると、連中はパダン島から来た外部者で、これまで何度も伐採を止めるよう説得したが聞き入れなかった。挙句はトラブルにまでなり、県の役人に報告したという。P氏は「怒りと悲しみ」を覚えると付け加えた。村の困窮化は増している。村の将来を案じる彼らにとって、昨年1月にやってきたRAPPのインパクトはあまりに大きい。最初に村に説明に来た郡政府(kecamatan)の幹部役人は脅迫に近い言葉で企業の受け入れを迫った。だからRAPPには腹を据えかねることばかりだ。一年前、村の内部で起こったトラとのコンフリクトから住民3名が死亡したのも、RAPPの伐採が原因だろうという。しかしもっと切実な問題はRAPPに与えられたHTIのコンセッションが村の敷地内に深く食い込んでいることだ。村の面積のおよそ55,000haのうち12,000haはコンセッション内に取り込まれたという。これにはデモを行って立ち退くよう抗議を敢行。その後会社との交渉で合意が成立したが、正式なMoUはまだ交わされていない。

5. セラプン村
セラプン(Serapung)村の2,317haとセガマイ(Segamai)村の2,000 ha (当初の7,532 haから減じられた)の村落林は、今年の8月にパララワン県の県長、ムハマド・ハリス(Muhammad Haris)が承認し、現在は林業大臣の最終認可を待つところまでこぎつけた。筆者は昨年9月にセラプン村を視察した。そのときはちょうど、最後の検証作業プロセス(verification)として村の幹部や住民にヒアリングをするために林業省から役人が訪問していた。
セラプンとセガマイはAPP系列のサトリア・パーカサ・アグング(PT. Satria Perkasa Agung: SPA)との間で15年来、主に土地の境界を巡るコンフリクトを抱えてきた村だ。SPAのアカシア植林が毎年、村落林に迫っているという。このアカシア植林については、セガマイ村では住民は村落林のアクセスに横断しなければならないが会社は住民による敷地内の進入を拒否し続けている。また、SPAがHTI施業の一環から行った自然林の伐採で住民が協力した見返りが支払われていない。契約の不履行に怒った住民たちは2010年2月、会社事務所にボートを乗り付けて抗議行動をするなど実力行使も辞さなかったという。

違法伐採も「村落林」の脅威(セラプンエリア)

セラプンの村は島だが、その村落林は対岸の半島内陸部に位置している。小型漁船で村落林に向かう。SPA社のHTIコンセッション地はヨス・ラヤ・ティンバー社(PT. Yos Raya Timber)が所有するHPHだった。接岸後、カナル沿いの林道をしばらく歩くがヨス・ラヤ社の往時の施業跡が残っていた。住民たちがゴム、ピナン(pinang)、バナナ、ココナツ、アブラヤシなどを栽培する農地も広がっている。周囲の森はすでにいちど伐採の入った二次林だが、村落林の境界線が近づくにつれてラミン(ramin)、クンパス(kempas)などの大径木も見かけるようになる。健全な森がアカシア植林に変貌する前に「村落林」として正式登録されるのを願うばかりだ。■

◆JATANの「村落林」申請プロジェクトでは、財団法人トヨタ財団アジア隣人プログラム
および公益信託地球環境日本基金から助成金のご協力をいただきました◆

※この記事はJATAN News No.92からの転載です。

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